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社長も銀行からお金を借ります

言った者勝ち?!経営者保証に関するガイドライン

「経営者保証に関するガイドライン」の適用が開始されてから3年が経過しました。同ガイドラインは、中小企業が金融機関から融資を受ける際に、“経営者保証(経営者個人の連帯保証)なし”での融資を検討するように金融機関に求めたものです。

現在、日本には中小企業が400万社以上存在(個人事業主を含む)し、その中で金融機関から融資を受けている企業の8割以上が経営者保証を提供していると言われています。経営者保証を金融機関に提供していると、万が一、経営する企業が倒産した場合、経営者個人も破産せざるを得なくなってしまいます。“事業の失敗”が“人生の失敗”となり、最悪の場合、自ら死を選ぶ経営者もいるくらいです。こうした不幸を防ぎ、経営者の再チャレンジを促進するため、2014年2月に同ガイドラインが作成されました。

もっとも、経営者が経営する企業に対し保証をしないと、「会社として借入をして、個人では贅沢三昧。あげくには会社を破産させても、経営者はなんの不利益も被らない」というモラル・ハザードを引き起こしてしまう可能性があります。そのため、今回のガイドラインには、経営者保証なしの融資を行う前提条件として、「法人と経営者個人の資産・経理が明確に分離されている」ことなどが明記されていますが、「家族経営のような企業が、資産・経理分離は事実上不可能」(金融機関融資担当者)というように、なかなかクリアできる条件ではありません。

では、経営者保証は外れないのでしょうか。答えは「否」。ガイドライン制定とともに、金融庁は監督指針の改訂を行いました。そのなかで、経営者保証に頼らない融資慣行を定着させるために、銀行法第24条に基づいた報告を求めたり、第26条に基づく業務改善命令を出すこともあり得るとしています。つまり、ガイドラインには法的拘束力はありませんが、監督指針に強力に盛り込まれたため、金融機関は早くも積極的に動かなければならない状態になったということです。

思い出されるのは、中小企業金融円滑化法の施行です。同法の存在は想像以上に強力で、返済条件変更を謝絶したことを金融庁に報告したくない金融機関が次々と返済条件変更を承諾しました。結果、「当初の約束通り、借りたカネを返さなくてよい状態」が発生したことはいまだ記憶に新しいと思います。今度も一部では「経営者が会社の連帯保証をしなくてよい状態」が発生しています。しかも、言った者勝ちの雰囲気があります。金融機関は、当然、経営者保証を外したくないわけですから、保証を外すには経営者側からの申請が必要です。

中小企業庁が公表している『政府系金融機関における「経営者保証に関するガイドライン」の活用実績』によると、保証契約を解除した件数は2014年2月から2016年9月末までの累計で1万684件です。個人保証を提供している経営者の総数から考えると、同ガイドラインの存在に気付いている経営者は少なそうです。

mio.kawana :