労働者の告発が実を結ぶためには
こういった労基署の立ち位置を知らずに、労働者が労基署にタレ込んだとしても、社内でタレ込んだ犯人捜しが始まるだけで、何も変わらない可能性が高いと言えます。その上、タレ込んだ犯人であるとされた場合、退職を余儀なくされる可能性すらあります。
必要なものはとにかく証拠です。労働契約書、タイムカード、給与明細(給与振込先金融機関の通帳)、社内通達、就業規則、給与規定など、勤め先の関係書類は一式用意しておきましょう。さらには、メールや日記、メモといった業務に関係する記録はすべて用意しておくことが無難です。それを最寄りの労働基準監督署に持って行きましょう。
万が一、そういった記録(例えば出退社記録)を持ち出せないような状況であれば、「24時に事業場へ検査に来て欲しい」などと訴え、労働基準監督官が実際に長時間労働を目撃するように仕向ける必要があります。監督官による目撃も当然証拠となるからです。
そして、会社側にタレ込んだことが絶対にバレてはなりません。前述の通り、労基署は立ち入り検査に入った時点で違反行為が是正されていれば、企業名の公表、ましてや送検などすることはありえません。一時的に、未払い残業代をもらうためだけにタレ込むのであれば、目標は達成すると思われますが、根本的な労働条件改善を目指しているのであれば、労基署の立ち入り検査が入った時点で違反行為が続いていることを労基署に確認させ、再発防止策の策定等、当該企業を労基署の監視下に置くことが必要です。一度、違反が認定されれば、「再監督」という立ち入り検査制度があるため、当該事業所への立ち入り検査は入り易くなり、経営者としては気が抜けない状況となるのです。
ただし、労働基準監督官には年間の「定期監督」立ち入り検査の目標件数があるため、すぐには動いてもらえない可能性もあります。そうした場合は、労働基準監督署の上部組織である各都道府県の労働基準局に直接訴えるという手もあります。労働基準監督署も公務員組織ですので。
経営者と労働者のトラブルを解決するのは労基署だけ?!
また、公務員組織だからこそ、タレ込む先を間違えてはいけません。労働時間の長時間化による過重労働や、給与未払い・残業代未払いをタレ込む先は確かに労働基準監督署で間違いありません。しかし、同じ厚生労働省内でも「セクハラ」や「マタハラ」の管轄は所管しているのは雇用均等・児童家庭局、「高齢者」や「障害者」の絡む就業問題は職業安定局。そして、いまだなくならない“お役所仕事”であり、当然のように労働基準局との交流は少ないのが現状です。加えて言えば、「暴力を伴うパワハラ」は警察の範疇であり、「人権侵害のようなパワハラ」は弁護士の出番となってきます。
労働者が経営層とのトラブルが発生した場合、労基署に駆け込めばなんとかなると考えるのは大きな間違いです。「立ち入り検査時には、セクハラやパワハラの存在を確認することはありません。あくまで労働契約、労働時間といった部分のみです。立ち入った時に経営者が労働者に暴力を振るっているところでも目撃しないかぎり、他の機関と連携して当該企業を取り締まることはありません。」(労働局職員)
労基者の立ち位置を知り、タレコミにより労基署が動かざるを得ない状況を作り、ブラック企業を摘発させる。これしか、ブラック企業に勤める従業員が救われる方法はないのかもしれません。これ以上、ブラック企業が増殖しないことを願うばかりです。(了)
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