企業の業績が好転すると、必ずと言っていいほど経営者の口から出てくる言葉があります。「従業員教育」です。企業理念や経営方針の中に「教育」という文字を入れている企業は非常に多いのですが、現実的には教育はいつも後回しとなります。ましてや、業績が落ち込んだ場合には、教育費は真っ先に削減の対象となります。“従業員を育てなければ企業の未来はない”と頭ではわかりつつも、目先の利益確保に躍起になってしまうのです。なぜ、従業員育成が後回しになってしまうのでしょうか。
その理由の一つは、教育の効果が見えにくいというところにあります。「研修を実施したけれど、結局効果があったのかはよくわからない」という声はよく耳にします。そんなことを言われてしまう研修は、設計が悪いと言わざるを得ません。いわゆる“インストラクショナルデザイン”と呼ばれる教育を効果的・効率的に設計・実施するための方法論がわかっていないのです。
インストラクショナルデザインの目指すところは、教育の効果・効率・魅力を高めることです。
- 効果=最終的に学習者がどのような状態になり、何ができるようになればよいのかを、先に明確化する
- 効率=本当に必要な内容に絞って教育を行う
- 魅力=学習者に成功体験を得てもらい、研修に参加して良かったと感じてもらう。やらされている感を払拭する
インストラクショナルデザインの目指すゴールを実現するための手法として最も有名なものにADDIEモデルがあります。ADDIEモデルは、効果的・効率的・魅力的な教育をゼロから設計するときの手法であるとともに、既に実施している教育施策を改善する時の手法でもあります。以下の5つのプロセスで実施されます。
- 分析(Analyze)=ニーズ(パフォーマンス・ギャップ)とゴールの分析を実施する
- 設計(Design)=ゴールに到達するためのストーリーを設計する
- 開発(Develop)=設計したストーリーに基づいた教材を作成する
- 実施(Implement)=学習者に責任と積極性を持たせ教育を実施する
- 評価(Evaluate)=学習者自身のパフォーマンスの評価と設計したインストラクションの評価を行う
このうち設計では、ガニェの九教授事象という理論が有名です。以下の9項目を参考にストーリーを設計する手法です。
- 学習者の注意を獲得する
- 研修の目的を知らせる
- 前提条件を思い出させる
- 新しい事項を提示する
- 研修の指針を与える
- 練習の機会を作る
- フィードバックを与える
- 学習の成果を評価する
- 保持と移転を高める
これらを念頭に従業員教育プログラムを構築することによって、「研修を実施したのに・・・」と後悔しなくなる確率が高まります。経営者が研修の効果を実感する、つまり、研修の実施の成功体験を得ることによって、従業員教育が後回しの施策ではなく、業績に関係なく常に実施する施策になります。従業員教育の成功は、経営者にとってはもちろんのこと、従業員にとっても自分自身がスキルアップするために、WIN-WINとなるでしょう。いきなり研修を実施するのではなく、まずインストラクショナルデザインの理解から、ぜひ。