目標管理等の人事評価制度を導入したはいいものの、うまく運用できず悩んでいる人事担当者は少なくありません。期初に上司と部下でその期の目標について話し合い、双方納得した上で決定した目標の達成を目指し、その結果を評価する・・・・。理想的な姿ではあるかもしれませんが、これを現実のものとするのは一筋縄ではいきません。上司には経営層から与えられているミッションがあります。部下には一人ひとりの想いや考え方があります。ですから、そもそも双方納得で目標設定することが難しいのです。
難しいと言っても、目標を設定しなくてよいわけではないので、最終的には上司が提示した目標に対し部下が“あたかも自己決定したように”決めているのが現実です。こうして目標管理制度がうまくいっているように見えるのです。人事部には“双方納得したことになっている”目標が報告されるという仕組みです。ひどい部署では、目標設定の面談すらしていないかもしれませんね。
そこで、最近では双方納得による目標設定をするのではなく、会社側が設定したコンピテンシーリストを基準に評価をするという手法を取り入れる企業が増えてきました。コンピテンシーとは、「ある職務または状況に対し、基準に照らして効果的、あるいは卓越した業績を生む原因として関わっている個人の根源的特性」というものです。もう少しわかりやすく言うと、「成果を生むための望ましい行動特性」です。
コンピテンシーは5つのタイプに分けられます。
- 動因:ある個人が行動を起こす際に常に考慮し、願望する様々な要因
- 特性:身体的特徴、あるいはさまざまな状況や情報に対する一貫した反応
- 自己イメージ:個人の態度、価値観、自我像
- 知識:特定の領域において個人が保持する情報
- スキル:身体的、心理的タスクを遂行する能力
スペンサーの氷山モデルによると、スキルと知識は見えやすく開発することや評価することが比較的容易ですが、自己イメージ、特性、動因は奥深くに位置するため開発・評価が難しいと言われています。動因の例をあげれば、「成果を出す人がもつ達成意欲」です。確かに、意欲を開発したり、評価するのは難しいですよね。
全米経営者協会では、コンピテンシーの測定をサポートするために、「オペラント方式のテスト成績」、「アセスメント・センターのシミュレーションでの行動」、「ジョブ・パフォーマンスの記録」の3つの基準をあげています。
コンピテンシーは観察によって測定され評価されます。代表的な観察項目は以下の通りとなります。
- 行動の強度と徹底さ:測定の対象となる行動がどの程度意識的に行われ、またやり遂げられているか
- インパクトの範囲:行動により影響を受ける人々の数や地位、プロジェクトの規模
- 複雑性:より多くの事柄や人材、データ原因が考慮されているか
- 努力の量:行動に取り組む際にかける時間
- 独自の次元:特殊なコンピテンシーを測定するために用いられる独自の指標
なお、コンピテンシーは人が持つ根源的特性ですが、後天的にも学習が可能と言われています。学習と行動変容に関する4つの理論(経験学習理論、動因獲得理論、ソーシャル・ラーニング理論、自発的行動変容理論)によりコンピテンシーは高められ、次の6つのステップで身につけることができると言われています。
- 認識
- 理解
- 自己評価
- スキル演習とフィードバック
- 目標設定・ジョブへの適用
- フォローアップ・サポート
コンピテンシーリストによる評価は、会社側からの一方的な基準設定となりますが、人事戦略と経営戦略の一貫性を保つためには非常に効果があります。そして、コンピテンシーを2~3年に1度程度の割合で更新していくことにより、常に自社の状況に適した人材、会社側が求める人材の育成につながるのです。
形だけの、誰も納得していない人事評価制度を続けるくらいならば、コンピテンシーリストによる評価に切り替えた方がよいかもしれません。